「絵本の良い所は、最後には無事に帰る、元に戻る安心感を得ることでもあります」
絵本がハッピーエンドで終わることは当たり前のように思っていたことだけど、言われてみたら、確かに絵本だもん、そうあるべきだよね。
"生きて無事に帰る"
与謝野晶子さんの、『君しにたまふことなかれ』を思い出した。
これは絵本ではなくて詩だけれど。
日露戦争に出征した弟を思い、大胆に反戦の意味をも込めて、無事を祈った詩。
祈りの甲斐あって、弟さんは無事に戻ってきたそうだ。
望もうと望むまいが、残酷な結果が待っているかもしれないのが現実。
少しでもそういうことがないように、祈ったり、対策を取ったり、努力をしたり、くじけない訓練をしたりするのが現実。
絵本だけはどうか、主人公のみなさん、無事に帰ってきてください、最後は笑顔で本を閉じさせて下さい。
主人公が無事に戻ってくる絵本は星の数ほどあるけれだ、たまたま手元にあった絵本が、まさにその鏡のような絵本だった。
『ジョニーのかたやきパン』
作: ルース・ソーヤー
絵: ロバート・マックロスキー
訳: こみや ゆう
とんがり山の中腹の丸太小屋に、おじいさんとおばあさんと一緒に、ジョニーという男の子がお手伝いさんとして住んでいた。
おばあさんはいつも陽気に歌を歌い、ジョニーにかたやきパンを焼いてあげた。
3人の住んでいる場所の模写が、私、ズキューンと来てしまった。
こんな場所に住みたいなって。
いや、奥秩父の大弛小屋の小屋番をしていた頃は、こんな環境だったよなって。
だから、半分はノスタルジー、半分は憧れ、だね。
ある時、食料が底をつき、飼っていた動物もどうしたことか、さらわれたり迷子になったりと、いなくなってしまった。
生活に困ったおじいさんとおばあさんは、泣く泣くジョニーをよそに出すことにした。
お別れに、いつも焼いてたかたやきパンをリュックに入れてやった。
そのかたやきパン、リュックから落ちて、コロコロどこまでも転がっていく。
追いかけるジョニー。
途中で、以前いなくなった動物達も合流。
みんなでかたやきパンを、追いかけろ!!
気が付くと…。
ここは、もしや…。
それからもう1冊。
代官山蔦屋で平積みされていて惹きつけられて、図書館に予約を入れようとしたけど、蔵書のなかった絵本。
『いえでをしたくなったので』
作:リーゼル・モーク・スコーペン
絵:ドリス・バーン
訳:松井るり子
ところが、図書館のおはなし会に行ったら、読まれた絵本が、この絵本!!
やっぱりステキ。
しかも、蔵書も何冊もあるようで…。
「いえでをしたくなったので」でも引っかからないし、「いえでを」でもダメ。
今度カウンターに言ってみなくっちゃ。
さて、この絵本もまさに絵にかいたような、"元に戻る"絵本。
あっはっは。
ちらかし放題の家の中。
やんちゃな子供達が住んでいることが一目瞭然な、一番初めのページ!!
パパもママも、叱り疲れ、怒り尽くしたお顔をしちょります。
きっと子育てに疲れたストレスフルな夫婦が、夫婦喧嘩でもしたのでしょう。
我が家は息子が一人だけだけど、こんなことって無きにしも非ず…。
お気持ち、お察しいたします。
パパ達に怒られて逆切れしたのか、両親の夫婦喧嘩に嫌気がさしたのか、家出の計画を遂行しようとしている4人の兄妹。
こちらはこちらで、プンプンしております。
荷物を、いっちょまえに、まとめてる。
まず目指したのは、4人の大好きな木の上の家。
うん、確かにこんな場所があったらいいよなって、私も思う。
でもね。
風が吹いて飛ばされちゃった。
引っ越しだ。
次に向かうのはいかだの家。
でも、沈没。
次々に場所を変える。
でも、長くは住めないんだ、すぐに問題が起こるから。
最後に変えた場所は…。
そう、ここ。
この家、この笑顔、この胸の中。
廻り回って元の場所に帰る。
無事に帰る。
本人は知らなくとも、大きくなって帰る。
前と変わらない、もしかしたら前にはなかった幸せの意味を噛みしめて、帰る。
絵本を読むということは、ちっちゃい頃に、ちっちゃい心の中で、そんな訓練をすることかもしれないね。
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